「先月のある日に構内へ入った外部の方を、時刻と行き先つきで出してください」。

点検や監査の準備で、こう聞かれる場面があります。台帳やリストを開けば入場の記録は見つかっても、退場の時刻や、誰の承認で入ったかまでそろっているとは限りません。

この点検は、人を疑うためのものではありません。自拠点の入退場記録で、後から何を説明できて、何が足りないかを確かめるためのものです。6つの項目に照らして、答えられる、あいまい、答えられないの3つに仕分けてみてください。

入場の記録を仕組みで残す考え方は、工場の受付・入館管理の資料にもまとめています。

「あの日、誰がどこまで入ったか」を聞かれたとき

点検の準備中に、ある日の外部の方の入場について確認が入ったとします。来訪者の台帳、前日に届いた入場者リスト、共有フォルダのファイルを順に開いていくと、入場の時刻は書いてあります。ところが、帰りの時刻の欄が空いている人がいる。行き先には部署名だけが書かれていて、構内のどこまで入ったのかはわかりません。

記入されないまま通過する人が出るのは、受付が混む朝の時間帯や、守衛が別の対応に追われているときです。担当者が怠けているからではなく、記録がその場の手作業に頼って残る構造になっているためです。

守衛所の台帳と事務所側の来客記録が別々に残っている拠点では、同じ日の記録を突き合わせるだけで時間がかかります。片方には名前があり、もう片方にはない。どちらが正しいかを確かめるために、当日対応した人の記憶に頼ることになります。

後から答えられるかどうかは、当日の頑張りよりも、記録の残り方で決まります。

なぜ「後から答えられる」ことが大事か

監査や脆弱性評価は、決めた対策の運用を説明する場

食品防御(フードディフェンス)の規格は、何をどう守るかを拠点ごとに決める作りになっています。JFS-B規格の要求事項(FSM 7 食品防御)は、意図的な汚染のリスクを洗い出して評価し、対応策を実施するところまでを求めています。どの対策を選ぶかは拠点が決め、監査や脆弱性評価では、決めた対策が運用されているかを説明します。

※注釈:脆弱性評価とは、原料の受け入れから出荷までの工程や場所のうち、意図的な混入が起きやすい箇所、起きたときに被害が大きくなる箇所を洗い出す評価のことです。

FSSC 22000 Version 7.0の追加要求事項(2.5.3)にも、確認できた範囲では、訪問者や入場の記録そのものを定めた記述はありませんでした。入場の記録を残すこと自体が、規格の本文で一律に決められているわけではありません。

入場管理を対策に選んでいるなら、その運用を説明できる記録が要る

それでも、入場の記録は規格の周辺でたびたび例として挙がります。

  • JFS-Bのガイドラインには、食品防御計画の例として「従業員、契約者、訪問者の施設エリアへの入出を記録及び管理する方針・手順があること」が挙がっています。
  • JFS-C(Ver 3.2)は、食品防御の脅威が認められた箇所にアクセス管理を設けることを要求事項とし、ガイドラインではその例として入退場者の制限や記録を挙げています。

いずれも要求事項の本文ではなく、例示です。

  • 研究班監修のガイドライン(令和5年度版)は、訪問者への対応を優先的に実施すべき対策に位置づけています。従業員等の出入りや所在の把握、記録の保存については、入退構システムの検討も含めて、可能な範囲での実施を促しています。

当社の整理では、入場管理を対策のひとつに選んでいる拠点ほど、その運用を説明できる記録があると話が早く進みます。

取り組んでいる規格や認証、選んでいる対策は拠点ごとに違うため、自拠点の食品防御計画と照らして読んでください。

入場の記録を点検する6つの項目

JFSMの食品防御 導入支援ハンドブックは、入退記録が追跡・検証に利用できる状態かを確かめる観点を挙げています。顧客や外部業者、派遣社員を含めて、入退場管理の方策を一貫して適用することにも触れています。

次の6項目は、この観点を点検しやすい単位に当社が分けたものです。項目ごとに、記録がある、あいまい、ないのどれに当たるかを確かめてください。

点検項目

答えられる状態

あいまいになりやすい例

ある/あいまい/ない

 

① いつ入場したか

入場の時刻が人ごとに残る

日付だけ、まとめ書き

② 誰が入ったか

本人の氏名・所属・元請

会社名と人数だけ

③ どこまで入ったか

立ち入った範囲・エリア

行き先の部署名だけ

④ 誰の承認で入ったか

申請と承認者

口頭やメールで、記録に残らない

⑤ いつ退場したか

退場の時刻

退場欄が空いている

⑥ 後から書き換えても痕跡が残るか

変更の履歴

修正の前後がわからない

① いつ入場したか

その人が何時に構内へ入ったかを、後から答えられるかを見ます。日付だけでなく、時刻が人ごとに残っていれば「ある」です。

複数人を同じ時刻でまとめ書きしていると、遅れて合流した人の入場がわからなくなります。業者の方がグループで来たときに、代表者だけが記入する形になっていないかも確かめてください。「9時頃」「朝一」のように時刻の書き方が人によって違う場合も、後から並べたときに順番が分からず「あいまい」に入ります。

② 誰が入ったか

本人の氏名と所属、協力会社であれば元請まで残っているかを見ます。会社名と人数だけの記録では、その日に入った個人を後からたどれません。

日替わりで顔ぶれが変わる外部の方も、従業員と同じ点検の対象として扱います。対象から外れている人がいると、そこが記録の抜けになります。たとえば、毎日来る配送や設備点検の方を顔なじみとして記入から外していないか。期間を決めて通う方の記録が、初日の分しか残っていないことはないか。いつも来る人ほど、記録から漏れやすくなります。

③ どこまで入ったか

立ち入った範囲を答えられるかを見ます。行き先欄に部署名しかない場合、製造エリアまで入ったのか、事務所で用件が済んだのかを区別できません。

脆弱性評価で重点を置いた箇所と照らし合わせられる細かさで、範囲が残っているかを見ます。建屋やエリアに名前や番号があれば、それを記録の項目にそろえておくと、後から照らし合わせやすくなります。訪問先の担当者が案内した先と、記録上の行き先が一致しているかも確かめどころです。

④ 誰の承認で入ったか

申請があり、誰が承認したかが残っているかを見ます。前日に入場者リストがメールで届き、口頭で了承して当日を迎える運用では、承認したという事実が記録に残りません。

許可した人を後から示せるかどうかで、「ある」と「あいまい」が分かれます。当日に急きょ追加になった人の承認が、電話一本で済んでいる場合も同じです。申請の内容と、実際に入った人が一致しているかまで確かめられると、この項目は「ある」に近づきます。

⑤ いつ退場したか

退場の時刻が残っているかを見ます。退場は入場より記入されにくい項目です。帰りは急いでいることが多く、出口が複数あると確認する人もいません。

退場の記録がないと、ある時刻に構内に何人残っていたかを答えられなくなります。入場の記録だけが並んでいる台帳は、一見そろって見えるぶん、この抜けに気づきにくい項目でもあります。退場欄の空白がどれくらいあるかを、一度数えてみるだけでも状態がつかめます。

⑥ 後から書き換えても痕跡が残るか

記録を直せること自体は問題ではありません。見るのは、直したことが後から分かるかです。JFSのガイドラインは記録全般について、修正するときは二重線を引き、修正日と修正者を記すルールを示しています。入場の記録にも同じ考え方を当てはめられるか、という当社の整理で加えた項目です。

手作業の運用で抜けやすいところ

紙の台帳、前日に共有するリスト、ExcelやGoogleスプレッドシートなど、入場の記録の手段は現場ごとに違います。手段を問わず、手作業が入る箇所には似た抜け方が出ます。

抜けのパターン

起きやすい場面

対応する点検項目

 

退場の記録がない

帰りの記入が任意、出口が複数

⑤

承認者が残らない

前日にリストが届き、承認は口頭やメール

④

範囲がわからない

行き先だけ書く様式

③

書き換えの痕跡がない

後から清書・転記する

⑥

記入されずに通過する

対応が重なる時間帯

①②

  • 帰りの記入を来訪者に任せていると、退館時間が空欄のまま残ります。手書きの来客記録では字が読めないこともあり、記録はあるのに使えない、という状態も起こります。守衛が別の対応をしている間に、記入されないまま通過する人が出ることもあります。
  • 手段ごとの違いもあります。紙は修正の痕跡が残りにくく、清書や転記をすると元の記入が消えます。Excelは保存場所によって履歴の有無が変わり、手元のPCに保存したファイルには変更の履歴が残りません。クラウド上のスプレッドシートは版の履歴が残りますが、権限のある人が書き換えられる点は同じで、どこまでさかのぼれるかは設定によります。
  • 前日に共有するリストにも、特有のずれがあります。リストは前日の時点の予定で、当日は直前の入れ替わりや追加が起きます。リスト上の名前と実際に入った人が違っても、リストのほうは書き換わらないため、後から見ると予定と実績の区別がつきません。
  • 記録が二重になっているときの抜けもあります。来訪者が手書きしたカードを守衛が台帳に書き写す、紙の記録を事務所でExcelに入力し直す、といった運用では、転記のたびに書き漏れや読み違いが入り込みます。どちらが元の記録かも、時間がたつと分からなくなります。

抜けの原因は、手作業そのものより、記録が人の手の空き具合に左右される構造にあります。書く人と確認する人が場面ごとに変わるほど、抜けは増えます。

記録の残り方を仕組みで整える方法を、資料にまとめています。

足りない記録が見つかったときの優先順位

「ない」や「あいまい」が見つかっても、全部を一度に直す必要はありません。状況に合わせて、手を入れる順番を選べます。

状況

先に整える項目

手の入れ方の例

 

点検・監査が近い

④②(承認、誰が)

様式に承認者欄を足す

退場の抜けが多い

⑤(いつ退場)

退場時の記入・確認の手順を決める

抜けが複数の項目にまたがる

持ち方そのもの

申請・承認・記録の担い手を整理する

  • 点検や監査が近いなら、説明に使う④と②から整えます。 様式に承認者の欄を足し、本人の氏名と所属を書く欄を分けるだけでも、答えられる範囲は変わります。過去の記録はさかのぼって直さず、いつから様式を変えたかを残しておくと、説明の筋が通ります。
  • 退場の抜けが多いなら、⑤から手を入れます。 退場の記録は、ある時刻に構内に何人いたかに直結します。退場時の記入と確認の手順を決め、出口ごとに誰が確認するかを決めておきます。出口を一か所に絞れない拠点では、まず退場の記入が抜けやすい出口と時間帯を特定するところから始めると、手を入れる範囲を小さくできます。
  • 抜けが複数の項目にまたがるなら、様式の手直しでは追いつかないことがあります。 申請、承認、記録をそれぞれ誰が持つかという、持ち方そのものを見直す段階です。入構申請を施設側と来訪元のどちらが持つかで、記録の残り方も変わります。

持ち方の整理は「入構申請は誰が持つ?協力会社が入力し施設側が承認する入構管理の考え方」で書いています。

記録を整える前に知っておきたいこと

記録がそろっていれば監査に通る、とは言えません。何を求められるかは、規格や認証機関、拠点の食品防御計画によって違うため、それぞれで確認が必要です。

記録だけで不正を防げるわけでもありません。なりすましや、QRコードなど入館に使う情報の貸し借りは、記録の仕組みだけでは完全には防げません。施設側の目視確認や、入館用の情報を他人に渡さないといった運用ルールと組み合わせて考えます。

記録の項目を増やすほど、書く側の手間も増えます。来訪者や守衛の負担が増えれば、記入されないまま通過する人がかえって増えることもあります。6項目すべてを細かく残すより、自拠点の食品防御計画で重点を置いた箇所から、無理なく続く形を選ぶほうが現実的です。

入場の記録は、人を疑うための道具ではなく、後から説明するための材料です。そして、工場の物理的な対策のうちの一つにすぎません。敷地や出入り口の管理を含めた進め方は、工場のセキュリティ対策|入退場・来訪者管理から始める物理セキュリティと事例で書いています。

承認から入館の履歴まで、一人に紐づいて残る構造

6項目の抜けの多くは、申請から入館までの流れのどこかで記録が途切れることで生まれます。申請と承認が記録に残り、入館の手続きが本人に紐づき、施設側で確認した入館の履歴が残る形にすると、①②④を同じ記録でたどれる可能性があります。

たとえば、誰が来るかを一番早く知っている来訪元が申請を入力し、施設側が承認する。承認された情報をもとに本人が受付をし、施設側で確認した入館の履歴が残る。この流れなら、承認と本人と入館の時刻が一続きの記録になり、転記の手間も減らせる可能性があります。一方で、立ち入った範囲や退場の確認のように、運用で補う部分は残ります。どこまでを仕組みで残し、どこを運用で補うかは、拠点ごとに決めることになります。

当社のRECEPTIONISTは、受付から入館の履歴までを残す仕組みとして、工場の受付・入館管理にも使われています。

太陽油脂様の事例では、導入前は入退場時間を手書きで記入していたため、記録の正確性があいまいでした。来訪者の管理は監視カメラの情報と来訪者記録を照合して行いますが、記録が曖昧だと照合の正確さも完璧とはいかず、フードディフェンスのリスクが課題になっていました。導入後は入退場のデータがクラウドに保存され、いつ・誰が入退場したかをリアルタイムに記録できるようになり、万が一の際の追跡もしやすくなったというお声をいただいています。

まとめ

6項目で答えられない項目が見つかったら、それは担当者の落ち度ではなく、記録の残り方を見直すきっかけです。様式の手直しで済むものもあれば、申請から入館の履歴までの流れを組み直したほうが早いものもあります。点検は一度で終わらせず、様式や運用を変えたあとに同じ6項目でもう一度確かめると、どこまで答えられるようになったかが分かります。

入場の記録を仕組みで残す考え方と、工場での受付・入館管理の進め方をまとめています。

出典